概要

名称  日本通信教育学会(略称 JADE)


英語名  Japan Association of Distance Education

発足の経緯

 日本通信教育学会(Japan Association of Distance Education)は、以下の経緯のもと、1950年12月に日本通信教育研究会として発足しました。

  1948年10月、「新教育の実施に当たって指導的地位を占めるべき一群の人員を要請する」ことを目的にIFEL―Institute for Educational Leadership(教育指導者講習会)が開催されました。その対象は「教育長、指導主任、大学の教育学部の教授、大学の行政官、青少年団指導者の6グループ」でした。通信教育に関するIFELは、1950年9月18日から6週間にわたってお茶の水大学竹早分校で行われ、以後、51年3月28日まで4期にわたって開催され、88人が参加しました。講師はW・R・ヤング博士(ペンシルバニア州立大学通信教育部長)、西本三十二(日本教育大学協会)、山本敏夫(慶応義塾大学)で、参加者は教育委員会、国・公・私立大学、高等学校の関係者など多彩なメンバーでした。

 1950年12月20日、第2期講習会の終了日に、第1期参加者にも呼びかけ、送別の会をかねて忘年会が催されました。その席上、この思い出の多かった学習の集まりをこのまま分散してしまうことが惜しいということになり、「日本通信教育研究会」(後に「日本通信教育学会」と改称)を結成し、毎年12月の初めの土曜日と日曜日に再会し、1年間の活動や研究を持ち寄って、日本の通信教育の推進にやくだてようという動議が出、全員一致でそれが成立しました。理事長に西本三十二、顧問に山本敏夫とW・R・ヤングが決まりました。

 51年3月28日、第4期IFEL終了時に第1回総会が開かれ、秋に研究発表会を開催することが決定され、同年11月24日と25日に東京学芸大学竹早分校を会場に、第1回研究発表会が開催されました。

会長挨拶

鈴木 克夫
(桜美林大学大学院 教授)

 本学会の名称は「日本通信教育学会」ですが、英語名は“Japan Association of Distance Education”(略称 JADE)です。

 「通信教育」という用語は、戦後、アメリカ式の通信教育、すなわち“correspondence education”が日本に導入された際、その訳語として使われるようになり、すぐに日本語として定着しました。戦前の日本にも、「講義録」とか「通信教授」という形で通信教育の前史はありましたが、戦後のそれのような学習指導を伴うものではありませんでした。そういう意味で、日本の通信教育は、戦後に始まったものと言えます。

 しかし、英語の“correspondence”は、語源的には「個人間ないしグループ間の関係またはコミュニケーション」を意味するはずですが、現在では「手紙の交換によるコミュニケーション(文通)」と「文通者間で交換された書簡(往復書簡)」を意味するものでしかありません。通信教育がもっぱら印刷教材と手紙の交換によって行われていた時代はそれでよかったのですが、1950年代から60年代にかけて、ラジオ、テレビ、オーディオ・テープ、レコード、それに電話などのさまざまなメディアが普及し、それらを利用した通信教育が登場してきたため、“correspondence”という特定のメディアをさす言葉が実態に合わなくなってしまいました。そこで、“correspondence education”に代わって、 “distance education”、日本語に訳すと「遠隔教育」という抽象的で包括的な新しい用語が生み出されました。その後、欧米ではそれが急速に普及し、1970年代半ばにはほぼ定着しました。

 一方、英語の“correspondence”と違い、日本語の「通信」は「意思を他人に知らせること」を意味し、その手段には郵便だけでなく電信、電話なども含まれます。むしろ、「隔てられた空間とそこを埋めるあらゆる手段を表しうる、豊かですぐれた言葉」(第3代会長・村井実による)なのです(拙稿「通信教育」『教育社会学事典』(2018年)より)。本学会の名称に「通信教育」を、英語名に“distance education”を使っているのはそのためであり、「通信教育」と「遠隔教育」とを対象とする学会であることを表しています。

 さて、現在の日本の通信教育は、大きく学校通信教育と社会通信教育に分かれます。そして、学校通信教育には大学通信教育と高等学校通信教育が、社会通信教育には文部科学省認定社会通信教育と一般の社会通信教育とがあります。また、それぞれの実施校によって組織された団体があります。本学会には、通信教育や遠隔教育を調査・研究している個人会員の他に、こうした団体および実施校が団体会員として加入している点が、教育関係の他の学会とは異なる特徴となっています。近年のICT(情報通信技術)の発達と普及によって、それらを活用した通信教育、遠隔教育への期待がますます高まる一方で、制度上の問題や質保証の面で厳しい目が向けられていることも事実です。本学会の特徴を活かし、研究者と実施団体・実施校とが一体となって、そうした課題解決に取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。

 70年の歴史と伝統のある本学会を、皆様とともに発展させてまいりたいと考えております。

プロフィール

1955年 横浜に生まれる。

1983年 慶應義塾大学大学院文学研究科史学(西洋史学)専攻修士課程修了。

1983年 学校法人駿河台学園通信教育部入職。

1990年 財団法人私立大学通信教育協会(現在は公益財団法人)入職、研究事業課長。

2003年 桜美林大学大学院国際学研究科助教授。

2009年 桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科(通信教育課程)教授、現在に至る。

社会的活動

公益財団法人私立大学通信教育協会評議員・監事、日本生涯教育学会評議員、文部科学省委託事業「通信制高等学校の第三者評価手法等に関する研究会」委員、文部科学省「大学通信教育等における情報通信技術の活用に関する調査研究協力者会議」委員、日本通信教育学会理事・事務局長などを経て、現在、日本通信教育学会理事・会長、公益社団法人私立大学情報教育協会監事。

主な著書・論文

主な著書は、『大学・大学院通信教育の設置・運営マニュアル』(編著、2004年)。

主な論文は、「『通信制大学院』の制度化について―大学審議会答申の背景とその意義―」(1998年)、「二つの遠隔教育―通信教育から遠隔教育への概念的連続性と不連続性について―」(1999年)、「遠隔高等教育の日本的構造―『通信制』と『通学制』の区分の在り方を中心に―」(2008年)、「サイバー大学本人確認問題考―構造改革特区832という桎梏―」(2009年)、「大学通信教育と『特修生』―『開かれた大学』の入学資格に潜むもの―」(2010年)、「『スクーリング』とは何か―辞書から読み解く通信教育の戦後史―」(2017年)、「国と通信教育―戦後大学政策における伏流の系譜―」(共著、2018年)、「検証 メディア授業告示―ICT活用教育の普及と質保証のために―」(2019年)など。