会員の声

通信制高校「発」の教育モデルに期待して

2024年9月27日 16時46分
会員の声

 皆様はじめまして。今年度より本学会に入会しました、小川慶将と申します。以前は文部科学省に勤め、高等学校通信教育規程の改正や、通信制高校を対象とする予算確保に携わるなど、通信教育の振興に向けて尽力して参りました。その後、学校現場における課題が多様化・複雑化する実態を知るにつれ、より直接的に、学校現場での取組をサポートしていきたいという思いが強まり、文部科学省を退職して弁護士を志すに至りました。通信教育の振興に向けて少しでもお役に立てるよう、学びを深めていきたいと考えておりますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

 さて、この度こうして「会員の声」の執筆の機会を頂きましたので、僭越ではございますが、私なりの通信制高校への期待を述べたいと思います。日本は「課題先進国」とよく表現されます。少子高齢化問題、環境問題、資源枯渇問題などの様々な課題が山積し、日本の課題は将来の世界の課題とも言われます。しかし、悲観する必要はありません。そんな「課題先進国」だからこそ、日本は世界に先駆けて課題解決のモデルを提示する絶好のチャンスにあるのです。そしてこのことは、通信制高校についても同様に当てはまるのではないでしょうか。これまで以上に生徒の多様化が進む中で、ICTも活用しながら、どのような教育・支援をなしていくべきなのか。経験したことのない課題に直面し、通信制高校に携わる方々は悩みに悩まれ、苦労を重ねておられるものと存じます。私は、こうした並々ならぬ思いの末に得られた叡智の結晶は、これからの学校教育の行方を占う上で必ずや重要な財産になると確信しています。近年、通信教育の方法は、通信制高校関係者のみならず、全日制・定時制高校、さらには、小・中学校段階の教育関係者からも高い関心が寄せられています。「課題先進校」だからこそ導き出し得る教育モデル、いわば通信制高校「発」の教育モデルを提示し、令和時代の学校教育を先導していくことを願っています。

(司法修習生第77期 小川 慶将)

(「日本通信教育学会報」通巻62号より)

すべての高校は本来「単位制」である

2024年9月27日 16時41分
会員の声

 『日本通信教育学会報』通巻61号8ページ「通信教育のこの一冊」欄で、矢野裕俊著『自律的学習の探求』が紹介されているのを見つけ、2014年11月1日の日本通信教育学会第62回研究協議会で、同書を引用して研究発表したことを思い出した(発表内容は、石川伸明「高校における通信制と通学制の「併修」による単位認定」『日本通信教育学会第62回研究協議会発表要旨集録』17~28ページ、日本通信教育学会、2014年を参照)。

 「単位制高校」の制度が1988年に創設されるまで高校は「学年制」であったと誤解されることがあるが、それは事実と異なる。同書も指摘するように、文部省は新制高校発足時に、新制高校については「単位制」によるべきことを通達しており、1988年に制度が創設された「単位制高校」以外の高校についても、「学年制」によるべきことを義務づける法規は一貫して存在していないのである(詳細は、石川伸明「高校の単位制に関する法規」『全国教法研会報』第89号、19~35ページ、全国教育法研究会、2014年を参照)。

 「学年制」で行われる「原級留置」とは、ある「学年」の履修科目のうちに単位修得できない科目が生じたときに上級学年に進級させない制度のことだが、そのとき単位修得できた科目についても再び履修しなおしさせる。このような修得済みの単位を没収する「原級留置」の仕組みは違法なのではないかと、2015年2月14日に桜美林大学四谷キャンパスで開催された通信教育制度研究会第21回研究会(日本通信教育学会協賛)での発表「通信制から見る通学制高校の不思議」のなかで指摘したことも思い出した。

(愛知県立旭陵高等学校 教諭 石川 伸明)

(「日本通信教育学会報」通巻第62号より)

ご挨拶 〜私が通信制高校の研究をする理由〜

2024年9月27日 15時50分
会員の声

 先日の第71 回研究協議会にて、初めて対面で参加させていただきました。示唆に富む研究発表に多くの学びをいただき、なにより情報交換会において、様々なつながりや貴重なお話をいただきました。このような一期一会のあたたかさこそ、対面学会の魅力であると再認識しております。

 さて、私は現在、広島大学大学院の博士課程後期(D3)、教育行財政学研究室に所属しております。伝統的にアメリカの教育行政・制度研究を中心とする研究室において、日本の高校教育のいち課程である通信制高校の研究をしております。

 なぜ、私が通信制高校にこそ注目したのか。それは通信制高校の制度および展開状況への注目が、これからの日本の高校教育の在り方を考究するうえで不可欠であると考えるからです。通信制高校の制度的特質は、制度発足当初から学校の「非通学性」と就学・修学範囲の「無限定性」を有していることにあります。ここから、これまでの日本の公教育制度が前提としていた「特定の「空間」、「時間」による教育機会保障」を相対化しうる示唆的対象として、通信制高校に注目する学術的意義を見出しています。

 全国の至るところで人口減少やそれに伴う学校再編(=統廃合)の議論が避けられません。またテクノロジーの発達により学習形態が多様化(学習者の選択肢・ニーズが拡大)しています。このような状況において「教育機会を保障する」とは何を意味するのか。とりわけ高校教育機会保障において教育行政はどのような役割と責任を有し、担い得るのか。以上の問題意識にもとづき、研究に取り組んでいます。

 本学会の皆さまのご著書や過去の研究論集からは、理論的にも実践的にも多くの知見と学術的刺激をいただいております。皆さまに直接ご指導・ご鞭撻をいただけるよう、そして本学会に少しでも貢献できるよう、想いを持って真摯に教育・研究活動に精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

(広島大学大学院・院生 川本 吉太郎)

(「日本通信教育学会報」通巻61号より)

通信制教育に期待するもの

2023年7月5日 20時14分
会員の声

 私が、通信制大学で学び始めたのは約15年前である。それまで多くの職場で同僚たちとともに児童生徒に関わってきた。そこでは、多くの同僚が困難を抱え悩んでいた。特に、中堅以上の40代後半から50代にかけて顕著であった。

 それは、「どうしてなのだろうか」と疑問に思う中一つ言えたことは、「社会や地域の変化、ライフスタイルの変化、保護者や子ども達の変化」などの急速な変化に対して教育現場における教師自身が対応できないということである。原因して、私たちが教員になるときに学んだことがすでに目の前の子どもたちの教育には通用しなくなっていることがあげられる。

 教師は、創造的な仕事あるために、児童生徒の個性や実態に合わせて、分かりやすく、一人一人のニーズに合わせた教育方法を創造的に考える必要があり、幅広い知識と深い理解が欠かせない。

 この実現のために、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指したのが「教員免許更新制」であった。

 しかし、教員免許更新制も廃止に今年度より、新たな研修制度がスタートし教員自身の自主的な研修が求められてきている。

 そこで、私は、「教師は目的意識を持った研修であれば自らの教師力を高めていくことが持続できるであろう。」と考え、さらに学びを通信制教育に求めたいと思っている。

 通信制教育は学びの機会や学びの方法、講座も多種多様で、教師一人一人が教師力を高める条件がそろっている。通信制教育は、常に学び続けることのできる機会と場をこれからも発展的に提供していってほしいと願う。

(八洲学園大学リカレント研究センター リカレント研究員 浦田誠一)

(「日本通信教育学会報」通巻60号より)

出藍の誉

2023年7月5日 20時06分
会員の声

 この度、本学会の会員様とご縁があって入会いたしました大学院生の中玲蘭と申します。通信教育に関する最新の実践・研究の動向を把握したく入会させていただきました。また、通信制高校にご勤務されている先生方とも交流を深めたく思います。

 私の専攻は芸術科教育ですが、私自身が公立の通信制高校で学んでいた経験から、通信制高校における教科教育としての美術教育を研究しております。管見の限りではありますが、通信制高校における学術的な研究は、在籍する生徒の特徴から教育心理学や教育社会学の分野で隆興しています。その一方で、学校教育の大部分を占める教科教育の方法論や内容分析は未着手な部分が多く、知の蓄積が充分になされていないのではないかと感じております。美術教育は実技を扱うため、教師にとっても生徒にとっても多くの困難を抱えやすい教科です。その一方で、アートセラピーや対話型鑑賞のように、生徒が自身と向き合い、他者とのつながりを感じる機会を生み出せる教科でもあります。N高等学校などの影響により、通信制高校がメインストリームへと移行する過渡期にある今、改めて通信制高校の教科教育の在り方を検討する必要があるのではないでしょうか。主観ではありますが、アートは通信制高校に通う生徒にポジティブな影響をもたらすと確信しております。

 これからは、学術的な側面から、あるいは芸術科教育という分野から、通信制高校のよりよい発展に貢献できればと考えております。そう思えたのも、通信制高校に在籍していたときに支えてくださった先生方の存在があってのことです。私の母校である栃木県立学悠館高等学校の校訓は「出藍」です。青は藍より出でて藍より青し。いつかこの言葉を体現し、恩師の方々が私を指導したことを誇れるように、これからも研鑽を積んでいく所存です。    

(筑波大学大学院 教育学学位プログラム芸術科教育分野 博士前期課程 中 玲蘭)

(「日本通信教育学会報」通巻60号より)

「働きながら学ぶ」「学びながら働く」

2023年3月17日 17時02分
会員の声

 受講者にフルタイムで学びに専念することを求めない通信教育は、労働者である受講者にとって、労働と教育を両立させるのに適した教育方法である。ただ「働きながら学ぶ」という表現には、本当は働きたくないのに経済的理由(貧困)のため働かざるをえないという「苦学」のイメージがある。しかしこれを逆にして「学びながら働く」と表現したら、イメージは反転する。

 終身雇用・年功序列賃金を前提とした「新卒一括採用」の雇用システムでは、学年の区切りによって、3月31日までの「学校」と4月1日からの「職業」の区切りが明確である。しかし、雇用システムが従来のメンバーシップ型から今後ジョブ型へと転換すれば、「学校」から「職業」への移行(トランジッション)のあり方も、グラデーションのある漸進的なものになる。終身雇用・年功序列賃金を前提とするメンバーシップ型とは異なり、ジョブ型の雇用システムのもとでは、労働者が技術革新に適応するために最新の知識や技能を習得することも、企業内で企業の費用でおこなう(企業内教育)のではなく、企業外で労働者の自己負担でおこなわなければならなくなる。

 それは、経済的理由(貧困)のために「働きながら学ぶ」ことが必要な人だけでなく、すべての人にとって、生涯にわたって「学びながら働く」ことが必要になることを意味する。生涯学習とか継続教育・リカレント教育と言われて久しいが、今後その必要は高まっていく。受講者にフルタイムで学びに専念することを求めない通信教育は、労働者に対して、離職することなく職業上の知識や技能の習得ができる職業教育の機会を提供する。働くために学ぶことが不可欠な社会において、通信教育は労働と教育を両立させる強力な手段になる。

(愛知県立旭陵高等学校 石川 伸明)

(「日本通信教育学会報」通巻59号より)

通信制高校の女子生徒の視点から高校教育を考える

2023年3月17日 16時32分
会員の声

 会員のみなさま、はじめまして。大学院生の大久保遥と申します。通信教育の動向把握や、会員の方々との学術的な交流の場を求め、入会いたしました。わたしは、主に通信制高校に興味を抱いています。現在は、通信制高校を経由する女性の移行過程について、質的調査を行っています。

 これまで、学生の頃から通信制サポート校でアルバイトをしており、その後、子どもの人権にかんする相談機関にて、相談・調査業務をしていました。そのなかで、これほどに不登校が増え、そして、通信制高校に入学する子どもが増えたのはなぜだろう、生徒にとって通信制高校で過ごす学校生活は、その後の人生にどのように結びつくのだろうと、疑問を持つようになりました。また、女性が主流の学校から離脱し、通信制高校に参入する過程、卒業後の社会への移行過程、それぞれのプロセスには、ジェンダーの要因が深くかかわっているものだと感じています。こうした関心から、通信制高校を卒業した女性の生活史を通じて、当事者にとっての学校経験の意味について、分析・検討しています。

 自身の研究では、とくに「子どもの声をきく」という姿勢を大事にしています。その視点からみえてくる通信教育や高校教育の課題やありかた、若者をとりまく社会構造について、深く、批判的に考えていきたいとおもっています。今後、会員のみなさまと、積極的に意見交換ができましたら大変うれしくおもいます。ぜひ、気軽にお声がけください。どうぞよろしくお願いいたします。

(京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程 大久保 遥)

(「日本通信教育学会報」通巻59号より)

学びを深め現場に活かせるように

2022年7月18日 17時04分
会員の声

 高校教員として勤務する中で日々感じる課題や疑問を追及すべく、私自身も通信制の大学院に進み昨年修了しました。途中、主人の仕事の関係でタイ(バンコク)で生活することとなりましたが、通信制の強みを活かしバンコクの大学でも質問紙調査を実施しました。
 主な研究テーマは「高校生の登校回避感情促進要因と抑制要因について」です。学校に行きたくないと思ったのにも関わらず、それでも行こうと思う要因と行きたくないと思う要因について研究しています。
 日本に本帰国後は、高校教員と研究活動を並行して取り組んでいきたいと考えていた点、現在の勤務校で通信課程に配属された点も重なり入会を希望するに至りました。
 通信制高校は全日制高校と比較し生徒層や業務内容も異なります。通信制に勤務する教員同士が課題や疑問を共有したり、情報を交換したりする機会は今まであまりありませんでした。
 入会してすぐに情報交換会への参加機会をお声かけいただき、発表をさせていただきました。大変貴重な時間と学びであり、今後もそのような交流機会を設けていただけたらと願っております。今回はオンラインでの参加でしたが、機会があれば是非直接会員の方々とお会いし、情報交換等ができたらと思っております。今後も宜しくお願いいたします。

(高校教員 向井夢乃)

(「日本通信教育学会報」通巻58号より)

通信課程へお礼

2021年12月23日 03時00分
会員の声

 私は2020年3月に学校法人明星学苑を定年退職しました。これを機会に、過去の整理を行い、これをまとめて通信教育制度研究会(鈴木克夫氏主幹)に、2021年4月24日にZOOMを利用して発表しました。そのタイトルが「学生に育てられた私 明星大学通信教育部と歩んだ20年」でした。私は大学での勤務の前半の20年間を通信教育課程に所属していました。この仕事が張り合いがあり、学生とのこの20年が私をつくりました。というより、学生が私を上手に使っていたのかもしれません。私は学生のためにと考え、サービスを試みてきましたが、常にそのために問題が生じ、仲間に助けられながらの繰り返しでありました。その学生や仲間に、そして通信教育課程に、お礼、お返しをしたいと、改めて思い、日本通信教育学会に入会しました。お礼にはならず、迷惑であろうが、今後、何かした発信したいと考えています。

 その思いは、通信教育制度研究会の発表で、課題として残しました。大学通信教育は、どうあるべきなのだろう。課題を羅列してみると、以下の通りです。「いつでも、どこでも、だれでも」は、まだ存在するのか。extensionでよいのか。制度なのか、授業方法なのか。サービスと価格の矛盾、学習していない学生で成立している組織で良いのか。添削と質問対応の脆弱であってよいのか。経済的に通学できない人のための大学になっているのか。教科書は授業料ではないのか。テキストは冊子であるべきなのか。古い課題であり、言い尽くされているのでしょうが、今後に確認をさせていただきたいと考えています。

(株式会社明星大学出版部 名取 淳)

(「日本通信教育学会報」通巻57号より)

大学通信教育とリカレント教育

2021年12月23日 01時00分
会員の声

 近年、リカレント教育が注目されています。「人生100年時代」が到来し、Society5.0社会が実現すると言われるなか、コロナ禍の影響も受けて、リカレント教育へのニーズはますます高まっていくと予測できます。関係省庁が連携して支援を進めていますが、そうした取り組みに欠かせない担い手の一つが、大学通信教育であることは間違いないでしょう。大学通信教育は、これまで培った「生涯教育」のためのノウハウを活かし、多様な働き方、多様なライフステージに応じた教育サービスを提供できる有効な手段です。

 とはいえ、文部科学省の調査によると、9割近い社会人が「学び直し」に興味を持つ一方で、25歳以上の入学率はOECD諸国と比較しても極めて低いのが現状です。原因は様々に考えられますが、この落差をどのように埋めることができるのか、これからの大学通信教育が答えるべき課題と言えるでしょう。

 コロナ禍で進んだ大学のオンライン教育を背景に、「遠隔教育」に対する社会的な認知度はずいぶん高まったと感じています。自学自修を基本とする通信教育は、ICTを活用することで、従来とは異なる教育を実施することができるようになりました。スクーリング科目における、対面授業とオンライン授業を組み合わせたハイブリッド型の授業もその一つです。教育方法の改善だけではなく、社会人が学びやすい環境や制度、プログラムを構築していく必要があるでしょう。通信教育が果たすべき責任はとても大きいと考えます。

(帝京平成大学 高浦 一)

(「日本通信教育学会報」通巻57号より)

縁(えにし)

2021年12月23日 00時00分
会員の声

 はじめまして、今年度より本学会に入会させていただきました茨城キリスト教大学の岩﨑眞和と申します。現在は、本務校にて社会福祉士や公認心理師の養成に携わる傍ら、主に教育や保健医療領域の臨床を中心に試行錯誤の日々です。さまざまなご縁のなかで本会の入会が叶い、その後もあっという間に共著者とともに第69回研究協議会での特別研究発表を終えた感じでした。

 本務校での公認心理師の養成課程設置に際して、幸いにも茨城県内の複数の通信制高校や、通信制高等学校等連絡協議会に携わってくださっている先生方と親しく交流させていただく機会に恵まれました。その際に県内に留まらない全国の通信制高校が抱えている種々の課題に直面するとともに、通信制高校の生徒さんや親御さん、そして彼らを支えてくださっている先生方に臨床心理学の視点からお力になれることはないかと考え、現在私たちが取り組んでいる臨床実践について研究協議会でディスカッションさせていただきました。指定討論者の土岐玲奈先生をはじめ、本当に多くの先生方より暖かくもクリティカルなご指摘を賜ることができ、そして、なにより私たちの取り組みに興味や関心をお寄せいただけましたこと心より感謝申し上げます。

 私は修士課程時代、博士課程時代ともに全国より集まった現職のベテラン教員の先生方と交流する機会に恵まれ、本当に多くのことを学び、教えていただきました。私なりの視点と手の届く範囲ではありますが、本学会で学び、実践と研究に励みながら少しずつでも恩返しできれば幸いです。最後になりましたが、ひょんなことから松本幸広会員が同郷かつ、同じ高校の大先輩であったことを知り、果てしなく長かった電車通学を懐かしく思い出しました。みなさま、今後もなにとぞよろしくお願い申し上げます。

(茨城キリスト教大学 岩﨑 眞和)

(「日本通信教育学会報」通巻57号より)

通信制高校の真髄

2021年6月30日 01時00分
会員の声

 文科省の問題行動・不登校調査によると、2019 年度に不登校が理由で小中学校を長期欠席した児童生徒は18 万1272 人で過去最多を更新した。また、中学生全体のうち3.9%は不登校生である。こういった不登校生の中学卒業後の進路として、通信制高校が選ばれることが多い。一般的には、「通信制高校は登校日数が少ないから、学校に通いづらい不登校の生徒でも卒業することができる」と考えられている。私自身も、実際に自分が通信制高校に勤務するまでは、同じように考えていた。

 しかし、実際に勤務してみると、通信制高校の捉え方が大きく変わった。生徒たちは、通信制高校で、ただ「高校卒業」だけを成すわけではない。生徒たちの多くは、通信制高校という学習の場において、自分の居場所や存在価値を認識し、自己肯定感や自己有用感を得ている。そして、基本的知識の学び直しや、人や社会との関わり、新しい学びへの挑戦等に、自ら進んで取り組み、自己の内面の成長につなげている。不登校の時と同一人物とは思えない程、生き生きと目を輝かせている生徒が多かった。

 このような生徒たちの変容は、「通学日数が少ないこと」によるものだとは考えにくい。通信制高校の様々な特色や学習システムの中に、不登校生徒たちが自分らしさを取り戻すための何かがあるのだと思われる。つまり、「登校日数が少ないこと」以外に「通信制高校の真髄」が存在すると考える。この「通信制高校の真髄」の中に、不登校生徒を増加させ続けている現在の教育に対する大きな示唆が含まれているのではないだろうか。これを研究テーマとして、知見を深めていきたい。

(広島市立五日市南中学校 本田弥生)

(「日本通信教育学会報」通巻56号より)

本質を見ることから生まれる先進性

2021年6月30日 00時00分
会員の声

 3月に本学会の課題研究会で海外の遠隔教育の状況について報告する機会をいただきました。多くの教育機関がコロナ禍の中での実際的な対応に四苦八苦するなか、この課題研究会は、大きな構えとして、この世界史的感染症が近代学校システムに与えうる影響を考える、というテーマを持っていました。印象に残るところです。

北米高等教育における「自学」中心の通信教育および「講義」中心の対面教育から「対話・協働」型のオンライン教育への移行について報告しました。これはコロナ禍に始まったことではありません。30 年程前から本格的に実践と研究が始まり、テクノロジー、指導法及び組織作りに関して分厚い学術的知見と実践知の蓄積を持っています。非同期の対話とリフレクション(省察)の活用が最大の特徴です。

 移行期にあっては大きな抵抗がありました。いまの日本の状況を見れば容易に想像できることです。ではなぜ北米の高等教育はこの抵抗を乗り越え、いち早く改革を果たすことができたのでしょうか。最大の理由は、彼らの中に浸透する「社会にコミットする」という使命感であると感じます。学生の考える力を育て 、成熟した市民を育てる。

海外のオンライン教育専門家と話していると、この信念を強く感じます。

今後国内でこのコロナ禍を機に自律した学習者を育てようとする機運は生まれるのでしょうか。対面の教育機関でお話させていただくと、「日本ではできない」というリアクションを度々いただきます。対話を通して学ぶことに文化の障壁はあるのでしょうか。本課題研究会の質疑では、このリアクションが全くありませんでした。私には非常に新鮮でした。先生方が教育の本質を日頃から考え抜かれているからではないでしょうか。日本通信教育学会はこの国の希望であると感じます。

(東京都立昭和高等学校・主任教諭 宮下 洋)

(「日本通信教育学会報」通巻56号より)

通信制高校の現状と課題

2020年12月25日 01時00分
会員の声

 私は、通信制大学を卒業した。当時、大学側から与えられたテキストが理解しにくく、理解しやすいテキストを探すのに苦労し、自学自習がなかなか進まなかった。そして、このような自学自習のしづらさは、通信制の大学だけではなく、高等学校でも同じことが言えるのではないかと考えた。そのため、私は、通信制高等学校において使用することが義務付けられている学習書(高等学校通信教育規程では「通信教育用図書」とある)について研究を行うことにし、学習書の研究で修士論文を作成、現在も研究を続けている。具体的には、「学習書」の分析を行い、「学習書」の特徴、工夫のポイント、課題を検討してきた。現在は、通信制高校で数学の教員も行い、「学習書」の執筆にも携わっている。

 私は、常に通信制高等学校の教育内容・方法はどのようであるのがよいかを考えている。特に従来型ではない通学型の通信制高等学校ではどのようになっているかに注目している。ICTが浸透した中、通信制高等学校の在り方が多様化している中にあっても、高校教育の中心に教科指導があるという観点から教育内容・方法の追究は必要であると考えている。

そのような問題関心において、研究動向を見てみたい。先行研究では、通信制高等学校における教育内容・方法についての研究数が減少傾向にある、という。特に、「通信教育用学習図書その他の教材」ついての研究数が減少しているという。このことについて、私は、「通信教育学習図書その他の教材」から「ICT」の活用方法に関心が移行したのではないかと予想している。それでも、通信制高等学校の中心に「通信教育学習図書その他の教材」があることは変わらず、その視点での追求は必要であると考えている。

 私は、通信制高等学校の教員兼研究者という立場から、使用する立場と執筆側の両者の視点を持って研究と実践を行って行きたい。

(星槎国際高等学校 高牧裕美)

(「日本通信教育学会報」通巻55号より)

通信制高校で探究的な学びを深めるために

2020年12月25日 00時00分
会員の声

 2019年8月に教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」の上映会に参加した。この映画は「AIやロボットが生活に浸透していく21世紀の子ども達にとって必要な教育とはどのようなものか?」をテーマに,アメリカのHigh Tech HighというチャータースクールでのPBL(Project-Based-Learning)が取り上げられている。試験の代わりに開催される学期末の展示会に向けて,クラス単位で作品制作などのプロジェクトに取り組む過程で成長していく生徒の姿を目にして,自分も実践したいと考えた。

 私が勤務する通信制の旭陵高校には,対人関係に苦手意識を抱える生徒が多く在籍し,面接指導でグループワーク等の生徒間の対話が必要となる協働的な学習活動を取り入れることが難しいという課題がある。この課題を解決するために,2020年4月からチャットツール「Slack」を活用したPBL(名古屋の魅力向上・発信プロジェクト)に総合的な探究の時間で取り組んでいる。Slack上にワークシートの写真をアップさせ,相互にコメントさせることで,生徒に心理的プレッシャーを与えることなく協働的な学習に取り組ませている。11月の学校祭を中間発表会とし,ポスター発表の機会を設けた。中間発表に向けてポスターをタブレットで作成したり,紹介動画を作成したりする中で,探究的な学習に取り組ませることができた。また,制作過程からオンライン上で共有し,相互にコメントしあう中で協働的な学習に取り組ませ,学びを深めさせることができた。現在は,中間発表会でのアンケート結果を踏まえ,最終提案書の作成に向けた改善に取り組ませている。

 ICTの活用は学習者をempowermentするという効果がある。対面しての対話が苦手な生徒でも,オンライン上のチャットであればディスカッションが可能であることが今回の実践で明らかになった。今後も通信制だからと諦めることなく,ICTを活用しながら生徒の学びの質と機会を保障していきたい。

(愛知県立旭陵高等学校 加藤圭太)

(「日本通信教育学会報」通巻55号より)