会員の声

「働きながら学ぶ」「学びながら働く」

2023年3月17日 17時02分
会員の声

 受講者にフルタイムで学びに専念することを求めない通信教育は、労働者である受講者にとって、労働と教育を両立させるのに適した教育方法である。ただ「働きながら学ぶ」という表現には、本当は働きたくないのに経済的理由(貧困)のため働かざるをえないという「苦学」のイメージがある。しかしこれを逆にして「学びながら働く」と表現したら、イメージは反転する。

 終身雇用・年功序列賃金を前提とした「新卒一括採用」の雇用システムでは、学年の区切りによって、3月31日までの「学校」と4月1日からの「職業」の区切りが明確である。しかし、雇用システムが従来のメンバーシップ型から今後ジョブ型へと転換すれば、「学校」から「職業」への移行(トランジッション)のあり方も、グラデーションのある漸進的なものになる。終身雇用・年功序列賃金を前提とするメンバーシップ型とは異なり、ジョブ型の雇用システムのもとでは、労働者が技術革新に適応するために最新の知識や技能を習得することも、企業内で企業の費用でおこなう(企業内教育)のではなく、企業外で労働者の自己負担でおこなわなければならなくなる。

 それは、経済的理由(貧困)のために「働きながら学ぶ」ことが必要な人だけでなく、すべての人にとって、生涯にわたって「学びながら働く」ことが必要になることを意味する。生涯学習とか継続教育・リカレント教育と言われて久しいが、今後その必要は高まっていく。受講者にフルタイムで学びに専念することを求めない通信教育は、労働者に対して、離職することなく職業上の知識や技能の習得ができる職業教育の機会を提供する。働くために学ぶことが不可欠な社会において、通信教育は労働と教育を両立させる強力な手段になる。

(愛知県立旭陵高等学校 石川 伸明)

(「日本通信教育学会報」通巻59号より)