約 20 年前,日本で e ラーニングという言葉を聞くようになり始めたころ,「大学教育における IT 活用」が盛んに言われだしていた。当時,私はちょうど修士課程に入学するころであり,修士論文の研究テーマとして,大学での e ラーニングや IT 活用をやりたいと漠然と考えていた。
指導教員の専門は生産管理であり,IT 教育が専門ではなかったが, IT 教育の生産性に興味を示していた。また,大学全体の FD 担当ということもあり,職務として IT 活用による教育改善を試みていた。このような経緯もあり,私の興味と指導教員の意向が合致し, IT 教育の生 産性,特に大学における e ラーニングの費用分析や経済性を中心に修士論文として考察する方針となった。ところが,当時は大学における e ラーニングの文献はある程度あったものの,費用分析のような経済性に着目した論文はほとんどなかった。幅広く資料や論文を探していく中で,「 通信制大学」「遠隔教育大学」「オープンユニバーシティ」の経済性に関する国内外のいくつかの文献を見つけ,その中で牟田先生が手掛けた「放送大学の費用分析」の論文や,この「大学の地域配置と遠隔教育」の書籍に出会った。
最終的な修士論文のテーマタイトルは「情報通信技術を活用した遠隔教育に関する研究-高等教育における現状と大学開放へ向けての課題-」ということになったが,その中身の半分は,通信制大学の経済性や学生の費用便益に関するものとなった。当初は大学の e ラーニングの経済性という漠然とした内容で考えていたが,この書籍を拝見後,「通信制大学」という明確なキーワードのもと,経済性分析を行い修士論文をまとめることが出来たと思っている。