現在、筆者は、本学会の鈴木克夫会長、京都大学の田口真奈氏、中央大学の澁川幸加氏(本学会監事)と、書籍『越境する通信制大学~学びのゲームチェンジャー(仮)』(出版社:東信堂)の出版を予定している。この書籍では、「第1部:通信制大学とはどのような大学なのか」、「第2部:通信制大学の現場を知る」、「第3部:通信制大学と通学制大学の境界」の計3部16章構成であるが、第2部にて、10の通信制大学を実際に訪問して得た情報から各大学の特徴を事例として取り上げた。
そのなかで、筆者が創価大学通信教育部を「全世代を取りこぼさない学修サポート」と題した執筆を担った。この執筆を担う中で、見聞のために触れた『池田思想研究の新しき潮流』(以下、本書)について今回は紹介したい。本書は、2016年に創価大学通信教育部が開学から40周年を迎えたことを記念して、創立者・池田大作氏(以下、池田氏)の思想と哲学に関する、さまざまな専門分野からの研究成果を収録した論文集である。本書に紹介される池田大作氏の思想・哲学の研究は、アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国などに広がりを見せ、その成果が発表されている。こうした広がりを本書では第1部として「教育思想の革新」、第2部として「人間学の探究」の2部8章構成で展開している。
ここで特に紹介したいのは、第1部第1章の「創価大学通教と池田大作の人間教育」であり、この章は、創価大学通信教育部のルーツが詳述されている。具体的には、教育の機会均等化、通信教育の歴史(イギリスにおける速記講座や日本における講義録)、そして、創価大学通信教育部の設立までの経緯などについて、過去の池田氏の論稿などを読み解きながら論じられている。
このなかで、池田氏が働く青年や、何かの事情で大学に進学できなかった人々に、勉学の機会を設けることこそが創価大学の通信教育の使命であり、池田氏自らが夜学で学んだ経験からも、通信教育の開設を熱望していたことを明かしている。そこから、「創価大学の通信教育の設立の原点」として、学ぶ機会に恵まれなかった人々を誰よりも大切にする内容が詳述されている。
さらに、創価大学と通信教育の設立について述べるにあたり、創価大学に縁の深い牧口常三郎氏(創価学会初代会長)、そして戸田城聖氏(同会第2代会長)が、それぞれの生涯において、別々の時期に牧口氏が主に女性を対象に、戸田氏が主に小学生を対象とした通信教育を事業として取り組んでいたことにも触れられている。
そのような通信教育と創価学会の関わりを踏まえて、「創価大学の設立構想」が具体的に発表されたときには、通信教育や夜間部もできるだけ早く始める。通信教育であれば、年齢、職業、居住地などに関係なく、あらゆる人が勉学にいそしむことができるとして、通信教育の設立予定に含まれており、当時の大学設置に関わった職員が、1971年の創価大学の経済学部、法学部、文学部の開設と同時に通信教育部を設置することの可否について、文部省(当時)とかけあっていたことが明かされているが、指導助言により、通信教育部が開設されたのは、開学5年後の1976年となった。
創価大学通信教育部の開学式は、1976年5月に開催されている。開設当時の1期生は2000人を超え、この4年後の通信教育部の最初の卒業式では200人を超す学生が卒業している。当時、職務多忙のため開学式に出席できなかった池田氏は、自らの肉声をテープに録音し、入学した通信教育部の学生に対して「創価教育体現の第一期生」であることの期待や「創価大学設立の構想を繰り始めて以来の念願」などのメッセージを送っている。こうしたメッセージの端々から、池田氏が通信教育部の開設に対して多大な期待を寄せていたことがわかる。それらに加えて、創価大学通信教育部の設立の精神などが丁寧に記されていることも本書の特徴と言えるだろう。
最後に、創価大学通信教育部は、来年(2026)5月には創立50周年を迎えるが、創立50周年誌の発刊があるのではないかと推察している。このような各大学にて周年事業の一環で発刊された書籍に示された史実を基礎に、通信制大学への見聞を広げることも、通信制大学を研究する上で必要だと実感する機会にもなった。そのためにも、今後、通信制大学が個々に刊行する書籍も「通信教育のこの一冊」における必読書なると言えるだろう。
寺尾 謙(神奈川工科大学)
(「日本通信教育学会報」通巻64号より)