令和3(2021) 年に「高等学校通信教育規定」(以下、通信教育規定)および学校教育法施行規則(以下、施行規則)が一部改正された。本書は、文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校担当)付高校教育改革係長(当時)として本改正の立案を担った著者が、令和3年改正項目を中心に、改正の趣旨や内容を解説するものである。
通信教育規定は、通信制高等学校(以下、通信制高校)の設置基準としての性格を有するもので、通信制高校の設置者、教職員のみならず、設置認可を行う所轄庁、通信制高校と連携・協働する各種機関(大学、専修学校、サポート施設等)においてもその内容を理解しておく必要がある。しかし現実には、通信制高校関係者が関係法令の解釈に日々悩んでいる実態があるという(p.ⅱ)。また、著者自身も「法制度の解釈に悩み(略)適切と考えられる解釈にたどり着くまでに多くの時間を費やした」(同上)と率直に述べている。こうした背景から執筆された本書は、第1章 概要解説、第2章 逐条解説、第3章 一問一答、参考資料で構成され、その内容は具体的かつ実用的なものである。
しかし、本書は単なる実用書ではない。第1章 概要解説においては、通信制高校を取り巻く制度の概要や現状、規定改正の背景や、改正の経緯と概要が示されている。
この内容は多岐にわたるが、ここでは、面接指導と通学コースに対する見解を紹介したい。面接指導の意義及び役割は、学習知識を指導したり、自宅学習への示唆を与えたり、共同学習による人間形成を図ったりすること(p.26)である。通学コースにおいて「他者と協働して学ぶ機会を得ることは重要な意味を持つ」(p.16)が、「高等学校通信教育の基幹的な添削指導や面接指導がゆるみ、(略)自学自習がおざなりとなるようなことがあってはならない」(p.16)。日常的に通学する形で学校教育を実施するのであれば、全日制・定時制の仕組みによらなければならない(p.16)とされている。
この部分に関して、多少筆者の私見を述べさせていただきたい。適切な面接指導の方法や頻度は生徒の状況によって異なるはずであり、自学自習が容易ではない生徒の場合、まずは面接指導を集中的に行う必要があるかもしれない。通信制高校における教育の在り方についてここで問題とされているのは、単純な生徒の登校日数の多寡ではなく、あくまで、添削指導と、添削課題を用いた自学自習を支えるための面接指導が、いずれも適切に実施されているかという点であると考えられる。
自学自習を支える指導については、「中等学校通信教育指導要領(試案)」(文部省 昭和23 (1948) 年)第二章が、「現在にも通ずるものがある」(p.10)として紹介されている。ここには、通信教育の特質は、自学自習を中心とする個別指導であり、「まず通信教育生としての学習態度をはつきりつくりあげさせることがたいせつ」であること、「報告書を提出し、資格を得ればよいという安易な考え」を持つ者がいることも想定し、ていねいな学習方法や、報告書(レポート)の正しい書き方、文章による自己表現等について、最初のうちにできるだけ念入りに指導しなければならないことなどが示されている。通信制高校は生徒層が変化し、教育方法もそれに合わせて変化を迫られていると言われている。しかし、75年近く前に示された通信制高校教育の理念と指導の方針は、現代にも通用する、大いに参照すべき内容である。
なお、通信による教育を行うべき通信制高校において「日常的に通学する形」で学校教育が行われる理由としては、全日制(および定時制)高校が受け止めきれずにいる多様な生徒を支えるセーフティネットとしての役割を担っていることが挙げられる。現状では、生徒と課程のミスマッチを、通信制高校側が生徒に合わせることでカバーしているのである。本書が扱う範囲は超えるが、生徒と教育方法とのマッチングという観点からは、通学制の課程における、転退学を防ぐ対応やセーフティネットの拡充も求められよう。
筆者は近年、通信制高校関係者から、通信制高校教育の「質の確保・向上」の具体策について問われる機会が増えた。しかし、通信教育規定や施行規則は、教育の方法や内容について、「質の高い通信制高校教育とはこういうものである」と具体的なありようを示したり、それぞれの高校における創意工夫を妨げるものではない。これは本書も同様である。最後に、「本書を通じて、通信制高等学校を取り巻く制度への理解が深まることで、高等学校通信教育の特性を活かした更なる取り組みの実現に資するものとなれば、望外の喜びである」(p.ⅲ)との著者の言葉を紹介し、本稿を閉じたい。
土岐玲奈(星槎大学)
(「日本通信教育学会報」通巻58巻より)