近年、課題発見解決能力など「学ぶ力」が重要視されている。学校卒業後は、一般に人は独学で学ばざるを得ない環境に遭遇する。学校教育のように第三者が学ぶものを提供してはくれない一方で、独学者は学びに対して責任はなく、拘束もされない。しかし、現実は、独学で対応せざるを得ない状況に置かれる。多くの人が経験しているように、独学で継続して学び続けることは容易ではない。通信教育課程での学びも、狭義で捉えると独学環境下での学びであろう。
本書は、学ばざるを得ない人にとっても有用であると思われるが、広義の「独学」に焦点を置き、学ぶことをあきらめたくない人のために独学の技法を体系化した書である。題名に「大全」と書かれているように、750ページにも及ぶ書である。独学者の学習を支援する内容が書かれており、独学に壁を感じた人がそれを乗り越える技法を学べる書と言える。
「独学」には自身が継続的に学ぼうとする意欲が重要だといったような精神論ではなく、また、独学で成功した自慢話が書かれているものでもなく、技法の視点からまとめられた点が興味深い。著者自身が自分自身の苦手意識から独自の視点でまとめあげたものであるが、その技法を説明するにあたって、過去の著名人の理論や具体的で詳細な事例や説明がなされており、読み応えのある独学技法の専門書とも言える。
本書の構成を見ると、「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」「独学の土台を作る」という流れになっている。ここで気づかないだろうか。今の学校教育は教える側からの視点ではなく、学ぶ側からの視点が重要視され、「何ができるようになるか」そのために「何をどのようにして学ぶか」「(学習を)実施するために何が必要か」が重視されているが、本書の「なぜ学ぶのか」は「学ぶことによって何ができるようになるか」であり、「実施するために必要なもの」は「土台」を意味しており、両者の構成は同じである。学習指導要領では「子どもの発達をどのように支援するか」も重視されているが、まさに本書は「独学をどのように支援するか」を体系化したものであり、学校教育を意識して構成されているかどうかは不確かであるが、その考え方に準じている点からも学びの専門書だと言える。
本書には55の技法が書かれている。その一技法を示すと、独学者が遭遇し、かつ独学者の壁となっている「わからないを克服する」という内容が第14章で取り上げられている。そこでは「わからないルートマップ」を作成する技法が事例を交えて詳しく書かれている。ルートマップ自体を作成することを面倒だと思う人は独学に向かないかもしれないが、事例を用いてイメージ化しやすいよう取っ付きやすい工夫がなされている。本書は学習の動機づけから、学習デザイン、学習方略に至るまで詳細に書かれている。私自身、大学で「教育方法学」という科目を教えているが、「学習方法学」という科目が存在するならば、本書はその科目の教材となり得る。学ぶことをあきらめたくない人のための書籍で、それぞれの章が独立して読めるように書かれ、独学の凡人のために役立つと書かれている。しかし750ページは大作であり、本書を完読できる人は、独学が十分可能な人であるとも言えよう。
篠原正典(佛教大学)
(「日本通信教育学会報」通巻59号より)