通信教育は、いかにして、「自律的な学習を促しながら、生徒・学生を自立させるか」ということが重要であり、高校・大学問わず、この考え方を否定する人は少ないと思う。そこで今回は、高等学校教育をテーマとし、2000年に刊行された『自律的学習の探求 高等学校教育の出発と回帰』(以下、本書)について評したい。
本書が刊行された23年前と現在との比較において、通信制高校の生徒数は明らかに増加している。生徒の増加もあり、近年、本学会には、通信制高校を研究する会員が増加している。現に、通信制高校も増えれば、それだけ、通信制高校の教育や研究に従事する人も増えるため、本学会においても通信制高校を研究する会員が増加することは当然のことと言えよう。
本書の構成としては、第二次世界大戦後の日本における教育改革によって創設された高等学校について論じた全3部110章、248ページからなり、全体を通して、学術的な史料としての価値ある内容である。特に、第2部「自律的学習の支援システム」における第5章「通信教育の開設」では、定時制高校と通信教育に関する歴史的背景も含めた詳述があり、刊行から23年の時を経た今もなお、本学会の会員であれば一読の価値がある。
その中で、本書を読み、率直に感じたこととして、高等学校における「通学制」と「通信制」の比較研究などを実施するに際しての重要ポイントは、「単位制」と「学年制」の違いであり、もはや「通信制」と「通学制」の比較ではないと強く感じた。
現に、「学年制」は、日本における大半の全日制高校と定時制高校で導入されている制度である。どの高校でも、卒業のためには単位を取得しなければならない点は同じだが、学年制の場合は1 年ごとに必要な単位数が決まっている点が、単位制との違いである。そのため、1年間で必要な単位数が取得できれば、1 年生から2 年生、3 年生へと進級できるが、単位数が足りなければ留年となる。留年した場合は、足りなかった単位だけでなく、その学年のすべての単位を取り直す必要がある。加えて、留年した生徒でも、毎日学校に通うという点が「単位制」との大きな違いになる。
従来、この仕組みは多くの高校生、そして、その周りの大人は常識として捉えてきた。しかし、近年の通信制高校への進学状況を客観的に捉えた場合、実は、この「学年制」にこそ各種問題の根源であり、その結果として、通信制高校にて導入される「単位制」を志向する、つまり、近年の通信制高校の入学や転学することの増加につながっている大きな要因とも言える。
このように考えれば、通信制高校をテーマに研究する場合、「通信制と通学制」という比較ではなく、「単位制と学年制」という比較軸が重要であり、必要と言えよう。
これまで、学年制のメリットとして、「学校数がもっとも多く選択肢が広い」、「毎日学校に行くため友だちが作りやすい」などが挙げられてきたが、多様な価値観が認められつつある社会環境が構築されつつある状況下で、これらをメリットではなく、デメリットとして捉える生徒も増えてきたようにも感じる。さらに、多様性の尊重も謳われる中で、「学習者の学習ペースで、学びを進める」ことこそが、「自律的な学習」であり、それこそが、社会的な自立を促す高等学校での真の学びの姿なのかもしれない。
最後に、本書を読む過程で、本学会の山鹿貴史会員には、多くの示唆に富むアドバイスを得たことを感謝したい。
そして、改めて、筆者は、「高等学校と大学における通信教育を複眼的に捉える」という観点で、本書を、本学会員必読の書として紹介したい。
寺尾 謙(神奈川工科大学)
(「日本通信教育学会報」通巻61号より)